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2015.08.03

コーンフラワーブルーとカシミールサファイア

昨今、鑑別機関でもブルーサファイアの色表記についてコーンフラワーブルーやロイヤルブルーと表記をされるケースが増えてきています。
元々コランダム(ルビー・サファイアの鉱物名)のコレクターとして20年以上様々なサファイアを見てきましたが、
業界先輩諸氏にお叱りをいただくのを覚悟の上で私なりの考察をしてみたいと思います。

ブルーサファイアで最も価値のある色はコーンフラワーブルーで間違いは無いでしょう。
ロイヤルブルーは深く濃く彩度の高い青色と表現すると誰しもそのイメージが見えてくるのではないでしょうか。

ですがコーンフラワーブルーはどんな色?
と思われている方が多いように思われます。

実際、ロイヤルブルーのサファイアの10分の1あるいは100分の1くらいしか流通していない本当に希少なカラーです。

本質的な意味でコーンフラワーブルーと呼ばれるサファイアはやはりカシミール地方の熱水鉱脈を起源とする
サファイア(ほぼ100年前に枯渇)をそのカラーベースとしています。
この産地の特徴であるベルベッティーな光沢と独特な柔らかい青色が矢車菊の青色に似ていることがコーンフラワーブルーと呼ばれる要因です。

言葉でも写真でも表現することは難しいのですが、立体である宝石のカラーは宝石の内部から見えるものであって二次元的な色判断は非常に曖昧です。

何を説明しようとしているかというと、熱水鉱脈起源でこのようなベルベッティーな光沢を有するサファイアは特徴的に宝石内部に微細な球体状の液体インクルージョンを含みます(60倍程度の顕微鏡で観察出来ます)。
この無数の球体のインクルージョンが光が差し込んだ時に光を乱反射させ石内部にランプが灯ったかのように柔らかいベルベッティーなブルーカラーを呈するのです。
つまりカシミール産のブルーサファイアの美しさは3Dによって立体的に発せられているものです、

参考までに同じくコーンフラワーブルーとして仕入れたスリランカ産のサファイアの写真と見比べてみてください。

カシミール産サファイア 6CT

スリランカ産サファイア 3CT

スリランカ産のサフィアもジェムクオリティーで美しいですが、この青色は内部のシルクインクルージョンによって柔らかくなっているものです。
よく見ると結晶形にそって入る微細なシルクインクルージョンが観察されます。
写真では判断は難しいところですが、実際に見比べてみると同じコーンフラワーブルーと呼ばれて流通しているサファイアでも
全く異なることがおわかりいただけるかと思います。

全ての宝石に共通することですが、重要なのはカラーではなく、その色起源となる鉱床の違い・産地の持つ特徴の違いであると考えます。
もちろんカシミール産の全てのサファイアがこのような特徴を有するわけではなく、またスリランカ産・マダガスカル産のごく一部のサファイアにも同じ熱水鉱脈を起源とするカシミール産に近似した特徴を持つ石もあります。

私は産地が一人歩きすること、カラーが一人歩きすることには警鐘を鳴らします。
本質的な意味で美しい宝石とは何なのか、その美しさは何に由来するものなのか・・・
最も大切なことは正しい知識を持って宝石と向き合うこと、
そして宝石はその個体ごとの美しさと希少性によってこそ評価されるべきではないかと考えます。